教育推進プログラム「家族と法」-家族の法とジェンダー-

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家族の法とジェンダー(憲法、家族法、虐待対策)

●奥山 恭子 教授 (当時)
●君塚 正臣 教授
●川島 志保 弁護士(横浜法学会) 


 本教材は主として法科大学院の展開先端科目として設置されているジェンダー論、あるいはジェンダー法学等を念頭において作成したものです。ジェンダーに関する学問的方法論は多彩ですが、ここでは将来の法律家を目指す法科大学院生だからこそ必要と思われる課題を載せました。ジェンダー問題を専門にする人のみならず、憲法や民法、特に家族法の問題を扱う際に、根底におくべき基本的価値観形成に役立つことを意図したものです。
 素材は法科大学院における基本科目である憲法および家族法との複合的領域における諸問題の中から、他教材で扱われることが少ないが、将来の法律実務家たる学生には是非検討してもらいたいと思うものを、理論と実践の両面からの情報提供としてのせました。とくにアメリカの実情については、日本でDVや子どもの人権救済などの事案を多数扱っている弁護士が、高齢者施設等を訪問した報告も載せています。
 憲法関連の項については、家族保護条項といわれる憲法24条につき、立法の経緯が詳細に分析されています。本来憲法学の重要な論点ながら、法科大学院の憲法の授業時間内では十分に扱い切れない問題です。研究者教員による理論的分析が展開されています。
 家族法に関しては、基本科目の中では扱うことができないものの中から、3点取り上げました。これらは基礎法学(法社会学)とも関連して、法規と実態の齟齬の事例とも言えます。家事実務では家族慣習や性差に関する価値観が紛争に現れることがあり、ジェンダー論の課題として特に意味があるところです。そこで家族法と戸籍制度に関連する問題に焦点を当て、婚姻と親子関係を取り上げました。
 さらに世界の家族関係の法の動向と関連した素材も提供しました。現在婚姻観、家族観などが急激に変化し、比較法の課題も、従来の立法の比較だけではなく、価値観の比較研究が法的紛争の解決に重要な検討課題となっています。ここでは既存の著作や研究ではあまり取り上げられていないスペインの婚姻法を取り上げました。スペインはかつての日本の家制度に類似した法慣習が存在した州があるなど、日本との比較が興味深いところで、日本法の在り方の検討にも示唆的です。
 取り上げた個々の課題は、司法試験に対応させることを意図したものではありません。したがって答えを暗記するような学問でないことは言うまでもありません。むしろ実務家となり、さまざまな事案の解決に迫られたときに、身についた知見として作用することになれば、本教材作成者の目的は達成します。

 

 


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