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平成16年度(2004年度)法学既修者認定試験 刑法

第1問

 下記の事例におけるA、DおよびEの罪責を論じなさい。なお、特別法違反は問わない。

 小料理店の主人Aは、暴力団組長Bに100万円の借金を負っており、Bおよびその舎弟Cから再三厳しい取り立てを受けていた。

 ある日Aは、Bから電話で貸付金全額を持参してBの事務所に来るように言われたが、その際、自らが返済金を持たずにBの所に出かけていけば、BおよびCから暴行を受けるであろうと予想して、Bに対して「店員のDにお金を持たせるから」と言ったところ、Bから、「本当だな。もし嘘なら、Dがどうなっても知らないぞ」と告げられた。

 Aは、この経緯を告げずに、Dに対して、「Bの所に行って、借金が返済できないことを謝ってきてくれ」と申し向けた。

 Dは、BおよびCとは面識がなかったが、彼らが有名な暴力団の組員でもあり、何か危害を加えられることもあり得ると思って、友人のEに相談したところ、Eは、「では万が一の時にはこれを使え」と言って、ピストルをDに貸し出した。

 DがBの事務所に赴くや、Bの意を受けたCが「金を持ってきたんだろうな」と詰問したため、Dは「そんなもの持ってない」と強い調子で応答したところ、逆上したCが日本刀を振りかざしてDめがけて突進してきた。

 そこでDはとっさにEから借りていたピストルでCめがけて発射したところ、その弾丸は、Cの右肩部を貫通して同事務所の奥にいたBの急所に当たり、Cに重傷を負わせるとともに、Bを死亡させるに至った。

第2問

 下記の各事例におけるX、Y、A、BおよびCの罪責について論じなさい。

 1 Xは、友人A(当時13歳)に相談をもちかけ、Aの自宅にある父親Bに財布から同人名義の甲銀行より発行されたクレジットカードを無断で持ち出させた。その後、Xは、Aおよび途中より加わったYと共に近所のファーストフード乙店でハンバーガーの代金3千円を支払う際に、その店員Cに前記カードを提示し、支払原票にBの名義をAに記載させた。その帰途、Aは、事前にはXから前記「カードを無断利用後に再び密かにB に財布に戻して置けばよい」と言われていたのに反して、XおよびYから突然「カードを返却して欲しいのであれば、現金10万円を持って来い」と強請された。

 2 Aは、帰宅して事情を父Bに告白したところ、物分りの良いBは、「それ位の飲食代金ならば本来支払ってやる意思であったが、それ以上に自分のカードを悪用されては困る」と述べ、自ら直接XおよびYに会って前記カードを取り戻してきた。

 3 その翌日にXの死体が発見されたが、その死がBの行為またはYの行為、あるいはその後にXを轢過した第三者の運転車輌によるものか、判然としない。

 この事件の公判で被告人Bが、自己の記憶に反して、「私がXの服からカードを抜き取った際には、Xは息をしていなかった」と供述した。また、Yが証人として、その体験を欠くにもかかわらず、「自分がXの体から指輪を外す直前に、白い乗用車がXの倒れた体の上を通過したのを確かに見たので、Xは死亡していたと思う」と証言した。

出題意図

第1問

 主として、正当防衛と共犯について、急迫性の要件に関して個別的な考慮を認めた最近の判例などをも踏まえつつ、基礎理論、就中、要素従属性の一般理論と、本設問での個別的解決の妥当性との一貫性をみるために出題した。論理一貫性が重要であり、例えば、要素従属性について、制限従属性説をとるかそれ以外の立場に従うかは、評価の点で差を設けるものではない。他には、正当防衛と錯誤などが問題となるが、これも、特定の学説によって解答の難易・評価の有利・不利が生じないように配慮している。

第2問

 刑事責任年齢に達していない少年Aによる親Bからのクレジットカードの窃盗につき、不法領得の意思の存否および親族相盗例適用の可否、また、加盟店での飲食につき、1項詐欺罪と2項詐欺罪との区別、Bによる盗品の取還と恐喝罪および盗品収受罪の成否、さらに偽証罪・「死者の占有」等について、事例処理の基礎的な分析力と法令の適用を問うものである。

 


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