1. 法曹実務専攻トップ
  2. 入試情報
  3. 過去の試験問題、出題意図及び講評
  4. 平成16年度(2004年度)法学既修者認定試験 民法

平成16年度(2004年度)法学既修者認定試験 民法

問題 1

 Aは、B工務店に対し、Aが所有する土地上に建物を建築するという注文をした。Bは、その工事に着工したが、途中で経営難に陥り、工事を続行せずに放置した。Aは、やむなくC工務店に工事の続行を依頼し、Cがこれを完成させた。しかし、未だ引き渡しはされていない段階で屋根瓦が落下し、通行人Dが大怪我をした。

(1) 誰がこの建物の所有権を有すると考えるべきか。(2) Dは誰に対して損害賠償を請求することができるか。

問題 2

 A男は、B女との妾関係を維持するため、自己所有の不動産をBに贈与し、これを引き渡してBに占有させた。その後、AとBが不和になった。Aは、本件不動産の登記名義人であったので、Bに対してその返還を求めた。これに対し、Bは、反訴としてAからBへの移転登記を請求した。

(1) 本件不動産は引渡時には未登記であったが、引渡後にBと不和になったAが、本件不動産の返還を求めるために自己名義の保存登記をした場合、Bの請求は認められるか。(2) 本件不動産が引渡前にA名義で登記されていた場合はどうか。

問題 3

 遺産分割と相続放棄の相違に留意しながら、下記の設問に答えなさい。

(1)被相続人Aの甲土地をBとCが各2分の1ずつ相続した。その後遺産分割の協議によってBの単独所有とすることにしたが、Bがその登記をしないでいる間にCの債権者Dが代位申請(不動産登記法46条の2)によって、Cの法定相続分に応じた持分の保存登記をなしCの相続分の差押えを行なってきた。BはDの差押えを排除することができるか。(2)(1)の事例で、遺産分割ではなくCが相続放棄をした場合において、Bがその登記をしないでいる間にCの債権者Dが代位申請(不動産登記法46条の2)によって、Cの法定相続分に応じた持分の保存登記をなしCの相続分の差押えを行なってきた。BはDの差押えを排除することができるか。

問題 4

 Aは、Bから3000万円の融資を受ける際、自らが所有する甲土地(評価額2000万円)とその敷地内にある乙建物(評価額1000万円)の上に抵当権を設定した。さらに、Bの強い要請があったため、Aは、Cの協力を得てCが所有する丙土地(評価額3000万円)の上にも抵当権を設定してもらった。その後、甲・乙両不動産上には、DがAに貸し付けた1500万円の債権の担保として、それぞれ2番抵当権が設定されている。

(1) Aは、結局のところ、Bに対する3000万円の債務を弁済することができず、Bの抵当権の実行により、甲、乙および丙不動産の競売代金が同時に配当されることになった。いずれも評価額と同じ代価で売却されたとすると、Bは、各不動産からどれだけの配当を受けるか。 

(2) (1)の場合とは異なり、甲・乙の土地建物よりも丙土地の方が先に競売されてしまった結果、Bが丙土地の競売代金から債権全部を回収した場合、丙土地の所有者であったCは、Aに対し、どのような権利行使が認められるか。また、不動産価格の著しい下落により、Bが丙土地の競売代金から一部弁済しか得られなかった場合には、どのように考えたらよいか。

出題意図

問題 1

 「請負契約に関する問題であるが、総則、物権にもかかわる問題でもある。本問題で重要な点は、場合分けをして論じられるかどうかである。本問題では、Bが工事を中止した場合における建造物が独立の不動産と評価されるのか、それともそうは評価されないいわゆる建前なのかにより、解答の道筋は異なってくるからである。この場合に、いかなる場合に独立の  不動産と評価されるのかという基準を明らかにしなければならない。」

問題 2

 「本問は公序良俗違反、不法原因給付の問題である。よく知られた判決を前提としているので、難易度はそれほど高くはない。回答者は、このような問題の場合には、説得力をもった解答文書が書けるのか、整理して答えられているかが問われていると考えて欲しい。本問においては、論述の出発点として、解答者は、このような贈与が公序良俗に違反するものであることを論じなければならない。まず、この点が重要である。次に、本問では、このような公序良俗において給付がされたのか、未だ給付はされていないのかを論じることが絶対に必要である。何故ならば、Aが不動産の返還請求をしているという本問においては、当然のことながら、不法原因給付の問題に取り組まなければならないからである。給付者が不法に給付した物の返還を返還請求することができないという不法原因給付の法理が認められるためには、給付がされたことが必要である。回答者は、本問のように未登記建物の場合には、引渡だけで給付をしたことになると明確に論じる必要がある。」

問題 3

 「本問は、遺産分割と相続放棄のいずれも遡及効が与えられているにも拘らず、前者には遡及効を制限する規定(第三者保護規定)があり、後者にはないことをいかに考えるか、そしてそれを前提として、第三者への物権の移転について、それぞれを対抗問題や無権利の法理といかに関わらせて理解するかを問うものである。」

問題 4

 これは、同一の債権を担保するために複数の不動産上に設定された共同抵当権に関する事例である。共同抵当は、土地と建物が別個の不動産とされる日本の不動産法制のもとでは、実際にも社会的需要が多く、しばしば複雑な法律問題を惹起していることから、担保物権法領域の焦点のひとつとなっている。そこで、まずは、この領域の基本的な理解度を試すことができる事例問題とし、さらに物上保証人の弁済による代位の問題をからませ、債権法の総則部分に関する理解のほどを問うこととした。


ページの先頭へ